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オーダースーツに性別は関係ない!? アスターでつくるを愉しく。一人の人として向き合うプロの仕立て。
心の性と体の性の不一致を感じるトランスジェンダー。自身が自認する性で生きようと思った際、スーツ文化の日本では「メンズスーツ」「レディーススーツ」に分けられた既製品ではサイズが合わず、自身の体にフィットしたものを手に入れることが難しい。
そんな中あるニュースをきっかけにLGBTsに向き合うことになったのが、千葉県にあるオーダースーツサロン『Aster』。社長の井出俊信さんは個を大切にした仕立てと向き合い、誰もが自分の体型にあった欲しいスーツを作るお手伝いをしている。
小さい企業の大きな取り組み。そこに込められた一人のアライの想いをお届けします。
きっかけは無知と無理解による心無い
アウティングの犠牲になった死への憤り
私がLGBTs向けのオーダースーツを作成するようになったのは、今から4年前のことでした。新聞の記事で読んだのですが、とあるトランスジェンダーの方が自身のジェンダーを職場の上司にカミングアウトしたんですね。しかし、その上司は彼を罵り、その挙句に彼のセクシュアリティについて、同僚にアウティングしたそうです。その結果、彼は自殺してしまったという悲しい事件があったんです。
その時の私は、LGBTsという言葉も知りませんでしたし、もちろん、その知識もほぼゼロに等しかったのですが、ただ、何か心の底から溢れてくる熱い思いがありました。その自殺してしまった方は、自分が自分として、自分らしく生きたいと思っただけなのに。それが、カミングアウトした上司や周囲の人たちの、無知や無理解によって叶わなかったどころか、生を全うすることもできなかったのです。「なんてひどい世の中なんだ」そう思いました。
それから、私に何かできることはないのかと知人に相談をしたんです。すると、トランスジェンダーの人はスーツを買うことに困っていることが多いということを教えてくれました。考えてみると当たり前すぎる日常の中で気づかなかった部分でしたし、過去思い出してみると確かに思いあたる節はあったんです。
その後すぐに行動に移し、LGBTsの支援を行うNPO法人の方たちを店に招き、自分を含めたスタッフにLGBTsとはこういうものなんだよ、という研修をしていただきました。それまで知識がなく、漠然としたイメージしかありませんでしたが、研修を受けると知識と理解はすんなりと入ってきました。
それと同時に、オーダースーツを通して貢献したいとも考えていたので、研修をしてくださった当事者の方にモニターしていただき、FTMの方を採寸させていただくことになりました。身体的、骨格的に女性な方がいわゆるメンズスーツを作成する時の課題や注意点は、その時に見つけ、やはりオーダースーツ屋で解決できる問題だと確信に至りました。
性別ではなくその人その人に合ったものを
オーダースーツ屋はジェンダーレスな職業!
既成のスーツというのは、身体的・骨格的な男性や女性というバランスの中でメンズやレディースというスーツを販売しているんです。なので太っている方や小柄な体型の方と同じで、FTMやMTFの方などもその枠から外れてしまうとどうしても無理が出てきてしまうんですよね。例えば、骨格的女性の特徴で言うと、ヒップが骨格的男性と比べると大きいということがありますよね。FTMの方が、いわゆるメンズスーツをウエストに合わせたサイズで着ると、お尻や太ももがパンパンになってしまったり、上着もでかく、袖も長いものになってしまうんです。
ところが、オーダースーツ屋というのは、性別でスーツを仕立てることはしておらず、その人の体型や好みに合わせてスーツを仕立てているんです。Asterの店内を見てもらえば分かるのですが、メンズスーツやレディーススーツといったコーナーはなく、主に生地を展示しています。生地やボタン、糸を選んでもらい採寸した寸法を元に、コンプレックスがあればそれをカバーできるようなシルエットにしたりと、その人だけのスーツを仕立てていきます。
ただ、これは特別なことではなくオーダースーツ屋という職業は、LGBTs、特にMTFやFTMの方のスーツを仕立てることができるという機能性を本質的に持っているものなのです。しかし、LGBTsに関する知識や理解がないばかりに、その機能性を捨ててしまうばかりか当事者を傷つけてしまうこともあると思うんです。
既製のスーツ屋さんでの話になるのですが、一般的にはメンズとレディースのコーナーがありますよね。トランスジェンダーの方が、見た目の性とは違う性別のスーツを選ぼうとすると、「え、なんで?」と言われたり、こちらですよと意図しない性別のスーツを勧められたりすることがあるそうです。せっかくスーツを買いに店に訪れてくれたのに、それでは当事者の方はがっかりしてしまいますよね。
行動を起こすとすぐにレスポンス
オーダースーツを求めている人が多いことに気付かされた
LGBTs向けのスーツを作ろうと決めて、研修や勉強をしてから、そのことをホームページに掲げ宣伝をし始めました。私たちがアライであるということ、どんなジェンダーの方の体型にもあったスーツを仕立てることができるということ。それから大切なことの一つとして、来店された時に、自身のジェンダーについて話す必要がないということ。初めて会う人に自身のことをカミングアウトすることは、とても勇気がいることだと思っています。
なので、いわゆるメンズだったりレディースだったりのスーツ、どちらが欲しいのかだけを伝えていただけたら良いのかなと思います。口頭が難しければメモでも問題ありません。それさえ分かれば、あとは好みの生地を選んでいただき採寸させていただくだけなのです。
それらを掲げてからすぐのことでしたね、当事者の方から何件もの連絡がありました。そのレスポンスの速さに、正直驚かされたと共に、これだけスーツで困っている当事者の方々がたくさんいたんだということにも気が付かされたのです。私自身知らなかった分野に目を向けるだけで、本当はこんなに多くの需要があったのです。
スーツを着て嬉しいと素直に見せた
当事者の笑顔に職人としてやりがいを確信した瞬間
約11年、オーダースーツサロンを営んでいるのですが、よく来店されるストレートの方たちは、サイズがぴったりなスーツを着ると「しっくりする!」「似合っている!」というような喜び方をするんです。もちろん、そういった喜んだ姿を見るのはやりがいを感じます。ですが、トランスジェンダーの方がスーツを着ているのを見るとね、心の底から「嬉しい!」って思っているように感じるんですよ。
いわゆるメンズスーツは男性の象徴であるような面もあったりしますし、男性としての憧れの服という面も持っている人もいると思うんです。そのスーツをきちんと着こなせた時の達成感というか、言葉ではそんなことを聞かないですが表情だったり目の輝きだったりを見ることで、本当にやって良かったって思えるような、瞬間を感じることができたんです。
ただ、ありがたいことなのですが現在遠方からのお客様も多く、それもすごく離れた地域からスーツを買うためだけにお見えになる方もおられるんです。そうなると、交通費の方がスーツ代よりも高くなってしまうことがあるんです。それが今はとても気がかりです。
本来、オーダースーツ屋というのは、住んでいる家の近くの店を利用したほうが都合が良いんですよ。メンテナンスや体型の変化、今後のこととか刻々と変化する事柄に対応しやすいですからね。ただ、全国にいろんなオーダースーツ屋はあるけれど、LGBTsに関することを理解して、知識を持って対応できる場所がないというだけのことなんです。LGBTsに関する知識と理解を得ることで始められることですので、こうしたお店がもっともっと全国的に広がりを見せて、全国どこにいてもLGBTsが困らず自らの体型にあった好みのスーツを仕立ててもらえるような、そんな風になっていったらなと切に願っています。
オーダーサロンAster
「オーダースーツを通してワクワクしたモノづくりの愉しさをお客さまと共有したい」をモットーに千葉県内に2店舗(八千代村上店、佐倉うすい店)を展開するオーダースーツ店。LGBTsも安心してオーダースーツを楽しめるようスタッフと共にLGBTsに関する研修を受け、積極的に受け入れられるようなお店づくりを実施。
http://sebiro-aster.com
Twitter@Sebiro_aster
Instagram@salon_aster
Facebook@Asterusasa
取材・撮影/新井雄大 Twitter@you591105
編集/村上ひろし
記事制作/newTOKYO
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