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「理解されなかったとしても、LGBTsが尊重される社会へ」 漫画家・江崎びす子たんの思う「自分らしく生きる」こと
江崎びす子たんと言えば、元祖病みかわいいでお馴染みのキャラクター「メンヘラチャン」などを生み出し、原宿を拠点に日本のサブカルチャーを牽引してきたクリエイターの一人。イラストレーターから漫画家、ジェンダーレスモデルなど幅広く活動する中、2018年に発売されたコミックエッセイ『原宿系ジェンダーレス男子と大型犬カレシ』では、彼氏との何気ない日常を優しいパステルカラーと柔らかなタッチで描き「ゲイカップル」に対する社会の既成概念に新たなイメージを与えた。
今回はマルチな才能を生かし多様な生き方、働き方を体一つで体現しているとも言える江崎びす子たんのルーツを、母・森永ぐりこさんの子育て方針と合わせてお伺いした。
「隠しごとも嘘も下手ですぐ話してしまう」という江崎びす子たんと、
ありのままの息子を受け入れて愛情を注いだ母・森永ぐりこ
江崎びす子たん:幼少期はパーソナルスペースに誰かが入ってくることに強い嫌悪感を抱き、一人の世界を大切する無口な子どもだったので、友達を作るのが苦手でした。親も「ボーっとどこかを眺めている子」という印象があったそうで、感情が読むのが難しいと少し心配していたみたいです。実際にはボーっとしている様に見えて頭で色々な妄想や創造をしていただけなのですが(笑)。
昔から好きなものは女の子向けのアニメやかわいいTVCMのキャラクターばかり。そのせいか女の子の友達はできても男の子の友達はいたことがありません。今でこそ友達を作ることや人との輪を広げることは得意と言えるまでにはなりましたが、馴れ合うような関係性は苦手なので親友と呼べる人たちとも不要不急のやりとりは一切しません。
セクシュアリティの遍歴を辿る上で「女の子向けのモノに目がいく」と言うと、幼少期からLGBTs当事者だったのではと思われるかもしれませんが、私の場合は小学校5~6年生の時に本屋さんで表紙に好きな少年漫画のキャラクターが描かれた漫画を購入したら、内容がBLアンソロジーだったということが性的指向が移り変わる最初のきっかけとなりました。その漫画から同性愛などジェンダーやセクシュアリティに関する知識を得て自らの気持ちと擦り合わせたところ、性的指向がノンケからバイセクシュアルに。現在のセクシュアリティであるゲイだと自覚したのは高校生の時で、BL好きの男子が集うSNSコミュニティを通じて知り合った大学生のお兄さんとの出会いが大きく影響していると思います。
今までゲイである自分のことを受け入れらなかったということも、周囲がゲイだと知ったらどう思うかは特に考えたことはないですね。昔から嘘や隠しごとが下手で事実をありのまま話してしまう性格なので、ゲイであると分かった時すぐ周りにカミングアウトしました。
友人は「へぇーそうなんだぁ」ぐらいの反応、母である森永ぐりこにも「そう、病気にだけは気をつけなさいね」と身体の健康を気遣う言葉を掛けられるだけで、幸いにもカミングアウトが起因となって傷つくという経験をすることはありませんでした。もしかすると自分がゲイであると自覚する以前に、周囲の人たちはどこかで察していたのかもしれませんね。
森永ぐりこ:私自身 LGBTsの子を持つ一人の親として子どもを理解することは難しいことではありませんでした。産んだのは私です。ありのままの子どもを受け入れて育むことが母親としての幸せですから。LGBTsとはどういう存在なのか、今はインターネットなどで調べれば知識はすぐ身につきますが、当事者とその親の気持ちは人それぞれ。一言で言い表すのはとても難しいですよね。知識は物事を理解をする上で必要なことですが、それ以上に性差に関係なくその人を尊重すること、人と違うことを悩んで無駄に傷付かないことが大切なことではないでしょうか。
一番の最優先は健やかに存在することだと思うのです。そして、どんな時でも世界で一番子どもを愛しているという親の愛の深さが、悩み多きLGBTsを支えると信じています。私なりの理解ではありますが、この思いに自信を持っています。
正直、現在の日本社会はLGBTsを受け入れることに精一杯で、LGBTs一人ひとりの心の深い部分まで理解していただける段階には達していない気もしていますが、そんな中でもLGBTであることをおおらかに公表している著名人が多くなってきましたよね。若い世代の中にはLGBTsであることを一つの個性として捉える方も多いでしょうし、スター性のあるLGBTs当事者達の活動のおかげで、今や憧れの眼差しを向けられているということは、とっても素敵な事だと思います。
誰もが後悔しない人生を選択できるように…。
自分らしさを貫き続けている彼がLGBTsへの認知・理解を広めるために大切にしていること
江崎びす子たん:イラストを描くことをお仕事にしてからコミックエッセイ『原宿系ジェンダーレス男子と大型犬カレシ』に登場する彼とお付き合いを始めたのですが、当時から彼とは同性婚を見据えたお付き合いをしていたので、その前段階ともいえる同性パートナーシップ制度を全国的に広める為にも、自分たちの存在をオープンにしてより多くの人にLGBTsについて認知してもらった方がこれから生きやすくなるのかなという思いもあって、出版を決めました。
同時に、私たちはLGBTsの中でもビジュアル面などを始めマイノリティなタイプのカップルでしたので同じ同性愛やゲイでも「私たちみたいなタイプも存在するよ」という多様な愛の形を見せるという意図もありましたね。それに「心から誰かを好きになる」ということが人生における宝物になるということを伝えたかった。今では「心から愛せる人との別れ」もまた自身を大きく成長させる経験の一つになったと感じています。
イラストレーター・漫画家としてのお仕事以外でジェンダーやセクシュアリティについての苦悩を訊かれることがあるのですが、正直に「ゲイであることが原因で嫌な思いをした経験はないです」と答えるようにしています。例え、それが求められている回答でないとしても「差別や偏見に悩まされずに生きている人がいる」という事実が、セクシュアルに悩みを抱えているLGBTs 当事者の誰かの救いになるかも知れない。自分らしく生きるための歩みを進めるきっかけになれたら嬉しいですね。
「自分らしく生きる」というのは「他人に惑わされない生き方」というのが私の考え方。この考えに至る前は意味を履き違えて、自己中心的で周囲への気遣いという点で欠けていることがたくさんあったので、この記事を読んで下さっている方たちには自分はもちろん周囲の人たちを大切にすることを忘れないでほしい。ただ、“自分らしさ”を一切譲らなかった点において私は後悔していませんし、何度思い返してもそこは正しい選択をしたと断言できます。
とはいうものの、日本は他の先進国と比べても「自分らしく」生きづらい場所。一世代前に比べたらLGBTsへの理解も深まったとは思いますが、国のLGBTsに対して寄り添う姿勢が薄い点については、寂しい気がしています。もちろん自治体によってはパートナーシップ制度を導入するなど理解を示すだけでなく形として取り組んで下さっているところもありますが、やはり国全体で考えるとその動きは遅いかなと。
また私個人の視点ですが、同調意識や同調圧力が強すぎるがゆえに、マイノリティが排除される傾向が強いと感じることがあって…こういった雰囲気がLGBTsに対する理解が国全体で深まらない要因の一つとしても数えられるのではないでしょうか。
LGBTsが生きていくにはまだまだ足りないことばかりの環境ではありますが、自分らしく生きることが出来ずに悩んでいる方には「後悔しない人生」を歩んでいただきたいです。自分の人生の舵を切るのは自分。限られた人生の時間、いつ終わりが来るか分からない命を無駄にせず「自分の価値観を人に押し付けず、人から価値観を押し付けられても、それに左右されないこと」「他人がどう思うかではなく自分がどうしたいかを大切にすること」「明日あるとは限らない命、常に後悔しない選択をすること」を大切にしてほしい、そしてマイノリティに対しては「例え理解が出来なかったとしても、尊重する」という雰囲気が当たり前である日本社会になっていくことを心から願っています。
PROFILE
江崎びす子たん
『メンヘラチャン』『激動のまなぴす』といった作品を手がける人気漫画家・イラストレーター。2018年に発売されたコミックエッセイ『原宿系ジェンダーレス男子と大型犬カレシ』では彼氏との何気ない日々をリアルに描き、話題となった。その他にも「なりたい自分になる」がコンセプトのアパレルブランド『BE MIRACLE』のデザイナー&プロデューサー、ジェンダーレスモデル、コラムニストなどマルチに活躍している。
漫画/江崎びす子たん
取材・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO
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