TALK
東京→鹿児島 1,300km歩いて日本を繋ぐ
男でも女でもないXジェンダー”れいれいさん”
自ら鹿児島まで歩き、様々な人々の暖かさに触れあい支えられながらの旅。
LGBTs啓蒙活動を続け、地方に住む当事者たちと出会ったことで見えてきた「LGBTsの現状」をお伝えする
1月19日午前8時50分。東京駅旧駅舎前。まだ少し肌寒い。夜型だから前日はあまり眠れなかった。眠い目をこすりながら緊張のなかこれから訪れる数々の「つながり」に思いをはせる。
東京駅といえども朝早いこともあって人は多くない。9時をまわった。見慣れた人たちが集まってきた。手を振って抱きしめあう。私は今日、旅に出る。
僕の名前はれいれい。男でも女でもない。
性別に拘らないというこだわりをもとにジェンダーフリーデザイナーをしている。
今回の旅企画は東京から鹿児島まで基本徒歩で移動しながらたくさんの人に会うこと。
基本徒歩でヒッチハイクはしないが、人と会うことが大目的なのでお誘いをいただければ同乗は可としている。ただ歩くだけじゃ楽しくないので道中の都市で荷物を受け取って次の都市に運ぶ。
噂をすれば早速東京担当の”ようじん”が来た。(集合写真右下のベレー帽)いつもクールで面倒見がいい。手先が器用で料理や手芸に長けている。その凛々しい姿からは気づかないが、彼は女体に生まれた男性である。(FTM = Female to Maleとよばれる。)
東京から横浜に運ぶ荷物は本人自ら彫ってくれた手彫りのガラスコップ。
早速難易度が高いが、丁寧に梱包してリュックに詰め込む。
旧駅舎前で記念写真をみんなで撮り、あっというまに出走の時間だ。
ほとんどのメンバーが途中まで一緒に歩いてくれるということで、大所帯のスタートだ。
今回の企画は一緒に歩いている様子をSNSに載せていくことで自分たちのような存在が全国にいるということを証明したいという想いで始めた。また行く先々で僕を通して人が集まることで小さくとも確実にコミュニティを作っていくことができないかと考えている。
東京は駅間が短いのであっという間に新橋(1.5km)。
ほとんどメンバーはここでお別れ。たくさんの「気を付けて行ってきてね」をもらい、ハグをした。感極まって涙が込み上げ、ついに始まるのだなと気合が入った。
残ったのはスポーツトレーナーの“ヤナセ“、”じょーじ“、アウトドアなパティシエの“おがはる“、自分を含めて性別不詳の四人。このメンバーは横浜まで一緒に歩く。
この3人は僕が企画しているれいパという招待制の交流会イベントで顔なじみだ。
他者尊重がキーワード。完全なボーダーフリーなイベントを目指す。
ところで、そもそもなぜこんな無謀な企画を始めたのか。
実は「れいパ」というイベントを東京、大阪、福岡で二年ほど定期開催している。このイベントの参加資格は「他人を尊重できること」。つまり他人を侵害しなければ国籍、年齢、性別、その他アイデンティティ問わず参加することができ、完全なボーダーフリーを目指している。
当事者の集まりと聞くと「自分が行っていいのかわからない」とか、「自分が当事者かどうかまだわからない、確定していない」「一緒に行く相手がいないから不安」という声が挙がることがしばしばある。これはその場所のコミュニティが成熟しておらず、本来の自分の姿を隠して過ごさざるを得ないことが原因だと思っている。
自分もかつてそういう気持ちを抱いていた一員だったし、勇気を振り絞って行ったイベントで嫌な思いもたくさんした。
イベントだけでは同じ思いをした人をサポートすることはできないと感じ、当事者に会うという感覚ではなく「なんかおもろいことしてるやつが近くを歩いてるらしいから会いに行くか」という気軽さで一人の人間として出会い、点と点を結びつけて新たなコミュニティを作っていくことができないだろうかと思い立った。
電車では結局主要駅になってしまうし、車だと早すぎる。ヒッチハイクは最初から他力本願すぎる。自転車はそもそも乘れない。
『じゃあ歩こう!』というのが企画の発端だ。
大層な主旨を掲げておいてなんだが、正直東京を抜けることですら大変だった。
楽観的なマインドなので大丈夫だろうと思っていたが想像以上に過酷。
生まれつき体が丈夫ではないので大田区に入るころアキレス腱と足裏から痛みが出た。ところどころで止まってスポーツトレーナーの二人がテーピングを巻いてくれたりマッサージをしてくれた。
三人ともアウトドアなだけあって、全然へこたれず先に行っては振り返って「がんばれ!」と鼓舞してくれたのは印象的だ。
日も暮れ川崎市に入ったころ、正面から爆走してくる自転車が目の前に止まって「れいれい!」と呼ばれた。友人の咲だった。この辺の大通りだろうとわざわざ自転車で探してくれていたときいて僕は改めてこの旅は一人じゃないのだと気づいた。
4時間なんて嘘だよ!足も肩も痛いよ!本当にたどり着くの!?
この日のゴールの横浜を目指すも、ようやく大田区の隣の神奈川県川崎市。グーグルマップでは4時間なんて書いてあるが、実際ここまで休憩含めて8時間はかかっている。すでに足が棒になるぐらい重い。めちゃくちゃ痛い。
一歩進むだけでもしんどかった。鹿児島まで1,300kmだ。まだまだへこたれていられない。
ようやく横浜駅が見えてきた頃にヤナセのパートナーである”ハル”が合流した。
彼らは男女の概念を超えたカップルだが、本当に恋愛に性別は関係ないことを感じさせてくれる。
駅前でストックを置いて壁に寄りかかり一息つく。ここで横浜担当の”よう”と落ち合う予定だ。”よう”は僕がカミングアウトし始めたころにできた友人で、同様にXジェンダーであり男女の概念がない。今となっては気兼ねなく相談したりふざけたことができる仲の一人だ。
合流早々「ほんとに歩いてきたの?やばいよ、頭おかしいね。」と言われたが、ここまできたら誉め言葉だ。スタートから大事に持ってきた手彫りのコップを渡し、代わりに”よう”のオリジナルブランド「よう服」のロンTを受け取った。これを届けるため次は静岡県へ向かうのだが、その手前には大きな関門の「箱根峠」が待ち受けている。
健闘の言葉をもらい、”よう”に背中を見守られながら私もホテルへと向かう。言葉のない静寂の中一人になった寂しさを感じながら、とんでもないことを始めてしまったなと自覚した。
(第二章へ続く)
PROFILE
れいれい
1995年4月12日生まれ。男でも女でもないXジェンダー。恋愛対象はパンセクシャル(恋愛対象に性別を拘らない。)。
香港人の母と日本人の父の間に生まれ、幼少期より海外で過ごし国際的な文化圏で育つ。
物心がついた時から性違和を感じるも答えが見つからず、20代に入ってどちらでもないという概念に行きつく。
現在ではジェンダーフリーデザイナーとして、アパレルブランド「RAY RAY」、ボーダーフリーイベント「れいパ」をオーガナイズしている。