TV番組
自分を変えてくれた彼女と、世の中を変えていく。
地元で抑えていたセクシュアリティという個性。
生まれ育ったのは、富山県。田舎の小さなコミュニティの中では、みんなの共通意識からはみ出すのが怖かった。自分の恋愛対象は、女の子かもしれない。そんな気持ちにうすうす気づいていながらも、受け入れることはできなかった。友達との会話の大部分を占めていた恋愛トーク。みんなと話を合わせるために、男性とお付き合いしていた。そうすることで、女の子が好きという気持ちも、なくなるかもしれないと思っていた。
大学進学とともに、上京。地元では指をさされそうな奇抜なファッションに身を包む人がふつうに歩いていた。出会う友達も自らのアイデンティティを確立しているように見えた。みんな、自分らしく生きている。狭い固定概念に縛られていたわたしの視界が、一気に広がった4年間。一度きりの人生、本当の自分を抑えて後悔するのだけはやめよう。ひとりひとり、好きな色やファッションが違うように、セクシュアリティだって周りに合わせる必要のない大切な個性。そんな心境の変化とともに、女の子が好きという地元で抑えていた気持ちは膨らんでいった。そして、女の子同士が恋愛するテレビドラマを見た時、自分のセクシュアリティをはっきりと自覚した。わたしは、レズビアンだ。
レズビアンであることに自信を与えてくれた彼女。
はじめて女性と付き合ったのは、22歳のとき。まだ自分のセクシュアリティに自信が持ちきれなくて、いけないことをしているように感じた。街を歩く時も、妙に距離感を意識したりして。今思えば、東京では誰も人のことなんて気にしていないんだけど。
女性と付き合って、はじめて恋愛の苦しさがわかった。男性と付き合っていた時は、ギブアンドテイク。平等でありたい意識が強かったけど、本当に好きな相手には、見返りなんて求めなかった。高校の時、失恋して泣いていた友達の気持ちが、やっと自分にも理解できるようになった。
同性愛の恥ずかしさや後ろめたさがなくなったのは、今の彼女に出会ってから。ずっといっしょにいたいと思える大切な人の存在が、自分のセクシュアリティに自信を与えてくれた。同時に芽生えたのは、もうこの関係を隠しておくことはできないという覚悟。実家に帰るたびにくり返される「いい人はいないの?」という田舎ならではの会話に、嘘をつくのも苦しくなった。ある大晦日の夜、母親にカミングアウト。「後悔しないように、自分に自信を持って生きたらいい」。その時の言葉が、今もわたしの背中を押し続けてくれている。
LGBTsが「ふつう」な世の中にしたい。
彼女の存在によって自分のセクシュアリティに自信を持つことができた。それまで自分に向いていた悩みの対象が、世の中へと向かうように変わったのもこの頃。以前のわたしと同じように、自分に自信が持てないでいるセクシュアル・マイノリティの人たちの力になりたい。わたしたちが前に出ていくことで、LGBTsをもっと当たり前の存在に。「レズビアン」と検索すると、アダルトコンテンツばかりが出てくる世の中を変えていこう。当時はまだいなかったレズビアンカップルユーチューバーをはじめた。わたしが「U」で彼女が「REYAN」を名乗る「エルビアンTV」。わたしを変えてくれた彼女は、心強いアクティブなパートナーだ。
発信しているのは、なんでもないわたしたちの日常。わたしたちにとって「あたり前」のことが、多くの人にとっての「あたり前」になっていけばいい。レズビアンだって、記念日を祝ったり、デートをしたり、プレゼントをしたり、真剣に恋愛している。同性愛に対する特殊な見方をなくすには、まずは同性愛のカップルに見慣れることが大事だと思っている。
反響は、すぐに表れた。「自分はひとりじゃないと思えて、自信につながった」「自分のセクシュアリティにうすうす気づいていたけど、踏み出せなかった時に背中を押してもらえた」。たくさんのコメントをいただいて、自分たちの活動が誰かの勇気につながっていると実感できる。もちろん、視聴者はLGBTsだけじゃない。異性愛者の人も、既婚者の人も、レズビアンカップルの日常を、その人の日常の中で楽しんで見てくれている。「LGBTsの一般化」というビジョンの実現に向けて、まずは6万人のチャンネル登録者を10万人に増やすことが当面の目標。
そして今では、セクシュアル・マイノリティのカップルユーチューバーも増えてきた。わたしたちの存在がひとつのきっかけになって、タレントでもないふつうのLGBTs当事者がどんどん表に出てきた。すこしずつ、着実に動きはじめている世の中。変革の時代の中で、今日もわたしたちは正々堂々と愛し合っている。
PROFILE
U
26歳
レズビアン
YouTubeチャンネル「エルビアンTV」運営