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【大人にこそ読んでほしい絵本】“みんな違ってみんな良い”多様性な生き方を教えてくれる魔法みたいな3冊!

多様な性の在り方を認め、LGBTsが生きやすい社会へと舵を切り始めている日本。各企業では同性パートナーシップ証明による福利厚生を受けられる体制づくりや、ジェンダーによる制服の選択ができる学校も少しずつ増えてきている。このように生き方の選択肢が増えていく中で「そもそも多様性とは?」という疑問が目の前に立ち塞がっていることも少なくないはず。
そこで今回は難しい説明や理屈でなく、LGBTsはもとより自分らしさについて教えてくれる「大人にこそ読んでほしい絵本」をご紹介。大人になるにつれ忘れてしまう「気づき」や「みんな違ってみんな良い」に出会える魔法みたいな3冊をピックアップ。

【LGBTs当事者カップル視点から考える】
モフモフな2匹のオスウサギが結婚するまでのお話「にじいろのしあわせ~マーロン・ブントの ある いちにち~」

古いお屋敷で退屈な日々を過ごしているウサギ、マーロン・ブンドがキャメル色のふわふわの毛に包まれたボータスに一目惚れし、結婚するまでの道のりを描いた物語。マーロンの1日はというとご飯を食べながらTVを見て、食べ終わったら虫のフィルとデニスと話すこと。「つまらないウサギね。いくら立派なお屋敷でも檻の中のような生活なんてごめん」なんて思ったのだけど、独り身期間中の自分と重ねてみたら共通点が多すぎて震えたわ。休みの日は朝ごはん(12時に起きて食べるからもうお昼ご飯なんだけど)を食べながら情報バラエティ番組を見て、その後は惰性でワイドショー、ニュースを付けた部屋の中でスマホをポチポチ。人にも会わなければ、20㎡そこそこの部屋に住んでいる私は、マーロン君よりひどい生活ね。

私の #独り身休日ルーティン なんかはどうでも良くて、そんな退屈な毎日を送っていたマーロン君の日々が色めき始めたのは、ウサギのウェスリー君との出会い。2匹は出会ってすぐに意気投合、野ばらやお屋敷を所狭しと走り回り、いつしか退屈なお屋敷も大切な存在といることで寂しくないと気づくの。ハリネズミのトゲトゲ・キューリ君やカメのノロノロさんに結婚報告をすると、自分ごとのように喜んでくれる。「同性同士が結婚をするという行為に対して疑問や反対の声が上がらないのが当たり前なんだよ」というメッセージを最後にハッピーエンドを迎えると思ったら、ただ1匹「待った」の声をあげる、みんなのリーダー・カメムシが現れる。

誰よりも偉い立場にあるカメムシの意見を振り切り、彼らはどのようにして結婚することができたのか

この絵本では同性同士の結婚という社会的にハードルが高いと思われていることを、日常生活の中で感じる「私ってちょっと変?」と思うような、なんてことないクセや習慣と並列にして考える描写があるの。これが個人的にはすごい響いた。例えばアナグマのヘッコキー君はサンドイッチのミミを全て食べ終えた後に白い部分を食べるし、おりこうけんのアッシーさんも自分のお尻を嗅ぐクセがある。そういったことを挙げて「同性愛を普通ではない」と反対するカメムシに対して、誰しもが普通ではない、そして「普通ではない=いけないことではない」と抗議するの。

正直、LGBTs当事者として自分自身を100%普通であると言い切ることは難しい。事実、そう思うからこそ親にもカミングアウトできていないし、もしそう思えていたら好きな俳優やタイプの話ぐらいしても良いはず。それじゃ、LGBTs当事者ということを抜きにして「私は普通なのか?」と考えた時、やっぱり普通とは言い難い点がいくつかある。卵かけご飯には醤油を絶対3周半かけちゃうくらい濃口、2weekのコンタクトは使用期間以上につけちゃうこともザラにあるしね。って、そもそも普通ってなに?

もし自分がLGBTs当事者であることを両親にカミングアウトしなければいけないとして、「どの程度の熱量で知っていてもらいたいか」と考えた時、個人的には今挙げたような日常生活でのちょっとした違い程度の熱量で知っていてもらいたいなというのが本音だったりする。「そんなに醤油かけないで」みたいなテンションで「その男はやめときなさい」と言われたりする空気感ができたら言うことはないわ。

そしてこの絵本が最高だと思ったのが、出会いから結婚まで1日で完結しているということ。「伝統的な家族の在り方」に意固地になったばかりに、進展しない国の風刺にもなっているように思えてくる。誰が何のために作ったか分からないルールより、時代やTPOに応じた柔軟性が大切ということも学べるおすすめの1冊。

●◯●にじいろのしあわせ
~マーロン・ブンドの ある いちにち~
作:マーロン・ブンド、ジル・トウィス
発行:岩崎書店(2018年12月31日)

【LGBTs当事者カップルの子ども視点から考える】
LGBTs当事者夫夫の子どもが感じるリアルなお悩みがギュッと詰まった「ふたりのパパとヴィオレット」

キュートな丸メガネに赤茶色のショートボブが可愛らしいヴィオレットの両親はパパとダディーの2人、ママはいない。ある日、それを知ったクラスメイトのセシルは父親が二人いて、その二人が手を繋いだりハグをしていることを「ヘンだ」と言う。終いには周りのクラスメイトも「両親は病気」「ヴィオレットに触るとばい菌がうつる」とヴィオレットから離れ、友達は誰一人いなくなってしまう。

ヴィオレットが2人を悲しませたくないと学校であったことを話さず元気に振る舞うように、2人のパパもまたヴィオレットが友達にいじめられないように出かけるときに、とあるルールを決めている。

「パパやダディーは、みんなのパパとママと同じくらい、それ以上に自分を愛してくれているのになんでヘンなの?」

両親が2人いて、1人はママ、もう1人はパパなのがヘンではない家族ーーー?

物語の冒頭にセシルやクラスメイトがヴィオレットの両親に対して放った攻撃的な言葉は正直、古傷をグッと抉られるような痛みを感じたわ。というのも私は高齢出産で生まれた子供で、授業参観や中学の部活動の応援に来る母親が、周りの友人の母親より顔のシワが多いことが恥ずかしくて嫌だった。何なら父親とは年の差婚で10歳ほど上だったから、私が中学生の時、父親はすでに60代。そんな両親を目にした友人から時折「あの人、お前のおじいちゃん?」とか「お前の母さん、俺の母さんのいくつ年上だろう?」と聞かれることが度々あったことを思い出したの。

悪気はないにせよ、両親が傷つくようなこと言われるって自分のことを悪く言われるより傷ついたりする。だから、ヴィオレットが学校で両親について悪く言われたことを誰にも相談せず、閉塞的になってしまう気持ちは分からなくはなかった。

ヴィオレットのように父親二人が両親の家族を通して、私のように両親が高齢な家族もいる。親が父親だけ、もしくは母親だけの家族だっていれば、苗字や名前がカタカナの父親、母親の家族だって接することでヘンではなくて、同じような愛の形を持った家族であるということをしっかり教えてくれる。

逆を言えば冒頭のセシルたちの言動は、残念だけど未だに残る現代社会の声にも聞こえてくる。そういった声をダイレクトに受けるのを避けようと、父親たちは娘が特別視されないように家族で出かける時はどちらかの父親一人としか外出できないというルールを決めているため、ヴィオレットが2人の愛を目一杯感じられる場所は家だけ。社会の目によって行動や幸せの範囲が制限されている家族の今を反映することで、LGBTs家族の生きづらさなんかもリアルに感じ取れるはず。

●◯●ふたりのパパとヴィオレット
作:エミール・シャズラン、ガエル・スパール
発行:ポット出版(2019年10月18日)

【第三者視点からLGBTsを取り巻く社会を考える】
外見だけで人のことを判断していませんか?「Red あかくてあおいクレヨンのはなし」

「レッドは、あかいクレヨンです」という言葉から始まるこの絵本。ただ、そこに描かれているのは「レッド」というラベルが巻かれた青色のクレヨンが1本だけ。でも、オリーブかあさんやスカーレットせんせいはレッドを赤色だと信じてやまず、練習すれば綺麗な赤でイチゴもスカーフも描けると思っている。クラスメイトのバイオレットやベージュ、ピンク、レモンたちも「時間をかければ赤が描ける」「怠けているから」「もっと努力しないと」とレッド自身に問題がある様な意見ばかりを口にし、終いには文房具たちに削られ、ラベルを切られ、セロハンテープを巻かれる始末。

それでもハートやマニキュア、さくらんぼも赤く塗ることはできない。ある時「海を描いてほしい」とパープルにお願いされたレッドは「自分は赤だから」と躊躇しつつも、海を描くととても綺麗に描くことができた。レッドは赤ではなく青。レッド自身、そして周りもそれに気づき、レッドを「あお」だと認めるようになるの。自信がついたレッドは「あお」で大きな絵を描き始めるーーー。

先ほど紹介した2冊の絵本とは違って、表向きにLGBTsについて描かれた絵本ではないのだけれど「多様性を認め、個の力を最大限に貢献できる社会を目指す」という意味ではLGBTsに深く関係する大切なメッセージが込められていると思ったの。

この物語を読んだ多くの人は「ラベリング」と「多様性」という2つの大きなテーマで構成されていると感じたはず。ラベリングという点で言うと、レッドの周りにいる仲間たちは「レッド」と書かれているラベルが巻かれているから、レッドを赤色だと疑わなかった。表面から個人を判断をするということは脳が無意識のうちにしてしまうことであって、しょうがないことなのかもしれないけど問題はこの後。周りのみんながレッドの意見や気持ちを聞くステップを踏み忘れて「レッドが赤を描けるようになる練習」を提案してしまったことがレッド自身、本質にたどり着くまで遠回りしてしまった最大の原因だったね。幸いにもレッドの個性に気づいてくれる仲間がいたから良かったものの、もし誰も気づいてくれることがなかったら…と思うとすごく怖いことだなと思った。

日常生活を振り返ってみると性別や年齢といったことから、職業や居住地、血液型、外見なんかからラベリングをする光景は溢れているよね。このような基礎データはあくまでその人を知る上での通過点、それを踏まえた上で見えない中身の部分を対話を通して知ることで初めて「その人を知っている」と言えるのかなと考えさせられたの。よく言う「あ、この人知ってる」は知っている内には入らないんだよね、きっと。

赤だけど青。そんな周りとは違うレッドを柔軟に受け入れる多様な考えがあったからこそ、レッドは自分らしさを十分に発揮してこの絵本の世界において、大きく貢献することができた。これは現実の世界に置き換えてみても一緒、社会が多様性を認めてこそ個の力が発揮されると言うことは少なからず間違ってはいないことだと思いたいの。

●◯●Red あかくてあおいクレヨンのはなし
作:マイケル・ホール
発行:子どもの未来社(2017年1月21日)

日本、ひいては世界各国でLGBTsへの歩み寄る姿勢が目に見えてきているけれど、LGBTsフレンドリーな取り組みが100%継続的に行われる未来がくるとは限らない。次の世代を担う子どもたちに知識を与える立場にある大人の方たちに今、読んでいただけると嬉しいなと思う3冊でした。

そして、絵本の持つ魅力にも気づいてもらえたら嬉しい。子ども向けだと思っていた絵本も、今読むからこそ理解できること、学ぶことって実はいっぱい。私もそうだったし。心も生き方も豊かにしてくれる素敵な絵本に、ぜひ出会ってみて。

記事作成/芳賀たかし(newTOKYO)
写真/EISUKE

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