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“違いではなく共通点を描くことが大切” 稲井たもさんのティーンカルチャーからマイノリティを排除しないモノづくりの精神

ティーン誌や女性ファッション誌の編集などを経て、現在はガールズメディア『Nom de plume(ノンデプルーム)』のクリエイティブディレクターや脚本家としても活躍する稲井たもさん。彼女が作り上げる作品は10代の恋愛模様を繊細に描いたものが多いが、そこにはステレオタイプなジェンダー観を飛び出した多様な人物が登場するのが魅力だ。
 社会の「当たり前」「普通」と言った枠組みに当てはまらない子どもたちにも居場所があることを作品を通して伝えたいと言う彼女もまた、パンセクシュアルでXジェンダーのセクシュアルマイノリティのひとりだ。今回はLGBTs、LGBTQの中でも「s/Q」といった4つのカテゴリと比べてもまだまだ社会的に認知度が低いセクシュアルオリエンテーション、アイデンティティに属する彼女だからこそ感じたこと、気づきをどのようにして作品に昇華して来たのか、彼女の生き方とともに伺った。

「社会で作られた枠組みに当てはめようとしなくてもいい」
Xジェンダーであることを自認して以来、男性性と女性性の両方を大切にしてきた稲井さん

9歳ぐらいからいわゆるガーリーなモノを好きになったり、女の子らしく振る舞ったりすることが不得意でした。スカートは嫌いではなかったけれど…自分にはズボンの方が似合うなと思っていたし、中学生になると周囲の“異性を意識した言動”にも、なんとなく違和感を覚えていました。今思えば自身のセクシュアリティが影響していたのかも。
当時の友人に話を聞いてみると、高校生の時からバイセクシュアルであることを公言していたそうです。自分では全く覚えてないのですが、その頃から両性に特別な感情を抱くことが自然であるという認識があったのだと思います。

ただ当時はセクシュアルマイノリティといえば「LGBT」ぐらいしか知識になかったものですから、自分の性的指向がバイセクシュアルではなくパンセクシュアルであることに気づいたのはそれからおよそ10年後、29歳の時。ある女性とお付き合いをしたことがきっかけでした。

彼女は、自身のジェンダーを女性と認識していましたが容姿は中性的でした。彼女との関係を築いていくうちに「自分は男性性、女性性に惹かれ両性に性的思考を抱くバイセクシュアルとはまた別のセクシュアリティなのでは?」という疑問が頭に浮かぶように。そんな時に海外のミレニアルズがパンセクシュアルであることを公言していることを知って、調べていくうちに自分も同じ、性別関係なく人に性的指向が向くパンセクシュアルというセクシュアリティであることが分かりました。

それに伴って、自分のジェンダーアイデンティティを振り返る機会も与えられたような気がしていて、今はXジェンダー(男女のいずれかの性に自分を限定しない性別)という立場をとっています。その中でも両性、そして流動的な傾向が強いかな。
「女の子らしい洋服着たら?もったいないよ」と言われたり、「女子なんだから飲み会ではお酌するのが当たり前」と周囲に期待されたりするのには抵抗がありますが、女性であることにも誇りを持っていますし、かといって「歩き方や素振り、ファッションが男性っぽい」と言われても、他人にはそう見えるのかあ、くらいにしか思いません。周りの環境や目の前にいる人といったシチュエーションによっても、自分のジェンダーは大きく変化すると思います。

「自分らしく生きていなかった時間」というのは永遠に戻ってこない。
Z世代が「らしく生きる」ためのヒントを作品を通して発信していけたら

家族には自分のセクシュアリティについて話す必要性が今のところはないのでカミングアウトのようなものはしていませんが、お仕事では本質をオープンにすることで生み出せるものってたくさんあると思っています。例えば作品を見たティーンたちには、LGBTsに該当する人たちもいるかもしれませんよね。その子たちが自分らしく生きることを否定したりしないでほしいし、場合によっては自分を受け入れるきっかけになってほしい。そのために、パンセクシャル、Xジェンダーの自分が自身のセクシュアリティやジェンダーを公表することで「ありのままで良いんだ」と安心感を持ってもらえたらと思っています。私が今まで作ってきた作品は「社会にダイバーシティを!」と声高らかに掲げるようなものではなくて、多様な人たちが受け入れられていることが前提の世界感をとても大切にしています。

作品にはスポンサーがついていることがほとんどなのですが、例えばファッションブランドの広告案件で制作した短編ドラマでは、主人公の女の子が気になる男子に恋愛対象として見てもらえるよう、自分では似合わないと分かっていながらガーリーな服を選んでデートに臨んだものの結果、チグハグになってしまって失敗するというシーンがあるのですが、好きなものを好きと表現できる自分を大切にしている人の輝きみたいなものを要素として不可欠だった「ファッション」というキーワードを通して伝えたいと思い、このシーンを取り入れました。また、日本であればマイナスなイメージで描かれがちなふっくらとした体型で強気な性格の女の子と、華奢で気弱な男の子が恋を実らせたりと、「男子」「女子」のステレオタイプとはかけ離れた登場人物を描くことで個性を心の中に押さえつける必要性はないというメッセージを込めています。

こういった作品を作る上でLGBTsに関する意識調査を10代後半~20代前半をターゲットに実施したことがあるのですが、回答者の90%以上が男子がメイクをすること、逆に女子がボーイッシュな格好をすることに対して抵抗感を示すことなく日々生活しているということが分かりました。
それに現在、日本にはLGBTsが総人口の10%前後いると考えられていますが、「好きになる相手の性別って?」という旨のアンケートの回答に目を通してみると、LGBTsかもしれない人の数値が約20%程度と倍の結果が出たこともあったんです。そして、「自分らしく生きたい」と感じたことがある人は95%以上でした。
こういった背景には、ティーンのカリスマである、kemioさんが自身の現在のセクシュアリティをさらっとカミングアウトしたり、りゅ
うちぇるさんやMattさん、ぺえさんなど自分らしさを大切にしている存在の影響もあるのかなと。

正直言うと今の日本には少数派に対してまだまだ閉鎖的な雰囲気があるのは否めないなと思っているので、彼らのようなLGBTsに対してポジティブで開けた感覚を持つ人たちの影響でLGBTに対する支援や理解の輪が広がる可能性があると考えると、とても嬉しくなりますね。
セクシュアルマジョリティやマイノリティに関わらず、多くの人が彼らの生き方に共感している、私自身もジェンダーやセクシュアリティにおいてはお互い共通点を見つけることが大切だと思っているので、こういった存在が支持を得ている社会はとても良いなと感じています。

10代~20代は悩むことも多いと思います。自分のジェンダーやセクシュアリティに迷いを感じている人にひとつだけ言えるとすれば、周囲の人たち全員を納得させるような生き方ではなくて、自分が納得する生き方を選ぶのがとても大切だということ。
生きることは必ずしも周囲に合わせることではないし、時間は皆に平等に過ぎていく。もちろん「自分らしく生きていなかった時間」だって戻ってくることはありません。
ジェンダーやセクシュアリティのあり方って周囲の環境や社会に影響や矯正されることも多く、本来の姿を見つけることが難しいかもしれませんが、自分が思うまま、感じたままに生きてほしい。もし、自分の選択にとやかく言う人がいるなら、その人が本当に自分のことを大切にしてくれている人か考えてみて。そうではなさそうなら、「この人が自分の人生の責任を負ってくれるわけでもないんだ」とスルーするぐらいの気持ちもあっても良いんじゃないかな。
他人(ひと)と自分に優しく生きていればそれで良い。それだけで、十分“人間”なんですから。私はこれからも、未来を担う若者に自分らしさを大切にしてもらえるような作品を作り続けていけたらと思っています。

PROFILE

稲井たも
ガールズメディア『Nom de plume』クリエイティブディレクター。脚本家としてティーンのカリスマ的存在が数多く出演する短編ドラマ『アスタリスクの花 Supported by Indeed』『蒼い夏 Supported by AMERICAN EAGLE』『とけないで、サマー』などを手がける。
Twitter@tamoinai
Instagram@tamo.inai

インタビュー・撮影/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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