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「誰もが輝ける場所」を目指す早稲田大学 LGBTs学生を支援するダイバーシティ推進室とGSセンターの取り組みとは?

GSセンターの職員と学生スタッフの皆さん(写真は2019年度当時のもの)

日本有数の名門大学として知られる早稲田大学。2016年に開設されたダイバーシティ推進室をはじめ、LGBTs学生を支援するGS(ジェンダー・セクシュアリティ)センターの日本初の設置など、迅速かつ積極的にLGBTsフレンドリーな取組みを行っているということをご存知だっただろうか?
今回はダイバーシティ推進室の篤田美穂さん、そしてGSセンターが配置されている学生部所属の久保山尚英さんに、早稲田大学のダイバーシティ推進の取り組みを伺った

「セクシュアルマイノリティ学生への配慮・対応ガイド」発行による教職員への働きかけ

篤田さん:2012年、早稲田大学創立150周年にあたる2032年までに目指す大学の将来像として「Waseda Vision150」が策定され、その核心戦略の中に「男女共同参画」「ダイバーシティ」が盛り込まれました。「ダイバーシティ推進室」はこの流れを受け、2007年に開設した「男女共同参画推進室」を発展的に改組する形で2016年7月に始動しました。早稲田大学では、性別、国籍、障がいの有無、性的指向や性自認など、様々な属性を持った人々が対等かつ平等に社会に参加し、個々人がその能力を最大限に発揮していくダイバーシティ推進を「早稲田大学ダイバーシティ推進宣言」において掲げ、本学の構成員である学生・教職員のだれもが多様な生き方や価値観を尊重され、各自の個性と能力を十分に発揮できるよう、全学的な視野でダイバーシティの実現を目指しています。

ダイバーシティ推進室は、「男女共同参画推進」「異文化理解・受容促進」「障がい者支援」「セクシュアルマイノリティ支援」の4つを柱として、学生支援を担う実行組織「スチューデントダイバーシティセンター(以下、SDC)」を含む学生部、そして教職員支援のための実行組織である教務部や人事部などと連携を図りながら、大学全体のダイバーシティ推進にかかる施策を企画し、実行する役割を担っています。「セクシュアルマイノリティ支援」においては、LGBTs学生の相談支援を行う専門職員が在籍するSDC内の「GSセンター」と連携し、現場が抱える一つひとつの課題を丁寧に検討しながら、着実にダイバーシティを推進できるよう努めています。

「セクシュアルマイノリティ支援」における取り組みの一環として、2018年度から教職員向けに制作・発行している『セクシュアルマイノリティ学生への配慮・対応ガイド(教職員向け)』は、教職員の理解や配慮・対応を促すため、新任教員、新入職員が着任する年度初めに合わせ全教職員に配布しています。GSセンターの専門職員や学生スタッフ、そして実際にGSセンターへ足を運んだLGBTs当事者学生の声を反映させた内容としており、LGBTs支援の社会的な動きや変化に合わせた最新の内容として毎年改定版を発行しています。

2020年度に発行した第3版は、LGBTsに関する基本的な知識や学生の相談内容にもとづいた対応事例の掲載や、近年耳にするようになった「SOGI(性的指向及び性自認を表す言葉)」を用語解説に加えた他、LGBTs当事者学生が「嬉しい」「安心した」と感じた教職員のアクション(Good Practice)を「当事者学生の声」として新たに盛り込みました。これは、教職員の不適切な対応や配慮が欠けている言動を指摘するよりも、学生が心地良く感じた事例を紹介するほうが、対応や言動の参考になると考えたためです。「初回授業の際に、学生に対して使用して欲しい呼称や人称代名詞を尋ねるアンケートが実施された」「ゼミの飲み会にて「ホモネタ」で盛り上がっていた学生同士へ教員が注意してくれた」などといった声の裏には、教員のLGBTsに対する正しい理解・認知が向上してきたことも感じています。

ダイバーシティ推進室が開設されて4年が経過した現在、上記の配慮・対応ガイドの発行、ダイバーシティ推進宣言の公表、ダイバーシティ推進に関連する教育の提供や教職員への研修、啓発イベントの開催など、一つひとつの取り組みを経て、学内における構成員の意識も徐々に変わってきました。学生が教職員に影響を与えていることもあります。誰もがダイバーシティの重要性を認めるところではありますが、まだ課題は多くあることも認識しています。授業運営・学生対応の中での言葉の選び方ひとつから各々が意識した対応が自然とできるよう、推進のための地道な努力が必要だと感じています。


GSセンターにてダイバーシティ推進室と学生部の職員の皆さん。左から3番目が篤田さん、4番目が久保山さん

LGBTs学生サポートの最前線!全ての人々が自由に利用できる「GSセンター」の多機能かつ充実したサービス

久保山さん:先ほど篤田の話にありました「GSセンター」の開設背景としましては2015年、学生が考える“Wasedaの未来を見据えた改革案”をコンペ形式で発表するイベント『Waseda Vision 150 Student Competition』にて、学生サークルによる「日本初!LGBT学生センターを早稲田に!」というプレゼンが総長賞を受賞したことにあります。本学は「Waseda Vision150」策定以前から、多様なバックグラウンドを持つ学生が集まる場所であったため、マイノリティに対しても自然と受け入れる土壌や雰囲気はあったものの、公式にLGBTsの学生を支援するサービスや制度、組織を設けてはおらず、学生の発案が組織設置検討の大きな契機となりました。

これを受け開設されたGSセンター。センターの管理やサービス向上に取り組む専任職員をはじめ、ジェンダー・セクシュアリティに関する幅広い知識や支援活動の経験を持つ臨床心理士等学生相談に関する資格も有した専門職員、そして学生ならではの視点に立って、GSセンター利用者が集まるコミュニティの運営や各種イベントを企画・ファシリテートする学生スタッフが勤めています。センター自体がセミオープンなコミュニティになっているため、LGBTs当事者学生だけでなく、ジェンダーやセクシュアリティに興味・関心のある全ての学生・教職員、そして学外の方も利用することができます。学生スタッフとの会話や質問・相談はもちろん、プライバシーを確保した上で専門職員とのカウンセリング、また本やマンガ、DVDなどの資料が備わるリソースセンターとしての機能もあるため、アライの学生や教職員が足を運ぶことも少なくないです。


GSセンター主催『「女性らしさ」を超える ~本当の自分に出会うために~』のイベント様子

この他にも『セクシュアルマイノリティ学生とアライのためのサポートガイド』といった、本学の各施設や部署で行われているLGBTs学生への配慮・対応を一元化した内容をGSセンター公式Webサイトで無料公開しています。例えばLGBTs学生に対する就労支援や教育実習先への配慮要望など各部署との連携によるサポート体制をひと目で確認することができます。大学が対応している配慮やサービスの細かい内容を事前に把握できることでLGBTs学生が足を運ぶハードルが低くなり、相談もしやすくなってきました。実際に相談件数も年々増えています。ダイバーシティ推進室との連携においては、LGBTs学生が感じるキャンパスライフを送る上での悩みや困りごとなどの問題点がGSセンターを通してダイバーシティ推進室にプライバシーを尊重した上で共有され、大学としての対応策が協議・検討されるという点において学生の悩み・困りごとを可視化させ、改善点を浮かび上がらせるといった大きな働きもあります。

それはコロナ禍においても同じことが言えます。早稲田大学は、2020年度春学期は原則全ての授業をオンラインで行っているのですが、Learning Management Systemの都合上、自分の顔や大学に登録されている氏名が教員及び授業を受けている他学生のPC上にも表示される仕様になっています。そのことに対して「第三者の学生に学籍上の氏名が見えてしまうのは困る」といった戸惑いの声や相談もGSセンターに寄せられており、関連部署と学生の不安を解消するための対応を調整しています。こういった声を挙げることのできる雰囲気、また、勇気を持って相談してくれた学生の声を受け止め改善につなげていく姿勢が本学のダイバーシティを推進する重要な鍵であると再確認しています。

この様に、現在の早稲田大学ではGSセンターはもちろんGSセンター以外の関係部署、そして教職員、学生も含めて全学的に多様性を自然と受け入れる雰囲気が流れています。ジェンダー・セクシュアリティに関心、もしくは悩みを抱えている人がいたら、オンライン相談を利用してみたり、オンラインイベントに参加してみてくださいね。


篤田さん:早稲田大学は、日本国内はもとより、世界各国から様々なバックグラウンドを持つ方が集まる場所。「誰一人取りこぼさない」ということはもちろんのこと「誰もが活躍できる、誰もが輝ける」、そんな学び・研究の環境づくりに貢献できればと思っています。


教職員を対象とした研修『大学経営セミナー』の様子。
ケースワークを通じて、LGBTs学生・教職員の不安を取り除く対応方法について参加者が議論した

早稲田大学 ダイバーシティ推進室

「男女共同参画推進室」を発展的に改組する形で2016年7月に開設。大学の中長期計画「Waseda Vision 150」のもと、教職員を含む全構成員を対象としたダイバーシティに係る施策の企画を担い、さまざまな部署と連携をとりながら、だれもが能力を発揮できる環境の実現を目指している。LGBTs支援に関するこれまでの主な取り組みは、「セクシュアルマイノリティ学生への配慮・対応ガイド」発行の他、「出席簿」の性別欄削除、「だれでもトイレ」(すべてに「All Genders」の表記を含む)や「だれでも更衣室」の施設整備、「早稲田大学UD(ユニバーサルデザイン)マップ」の制作、学内における「性別情報収集の必要性」に関する見直しの働きかけ等。

https://www.waseda.jp/inst/diversity

セクシュアルマイノリティ学生への配慮・対応ガイド(教職員向け)
https://www.waseda.jp/inst/diversity/support/sexual-minority

Twitter@waseda_univ_PED

早稲田大学 GSセンター

2017年4月に学生支援に特化した形で開設された。早稲田大学のLGBTs学生およびその支援者のホームグラウンドであるとともに、ジェンダー・セクシュアリティに関心のある全ての人々が自由に利用できるフリースペース。早稲田大学におけるジェンダー及びセクシュアリティの多様性と流動性を尊重するべく、当事者の支援及び啓発活動に取り組んでいる。

https://www.waseda.jp/inst/gscenter

セクシュアルマイノリティ学生とアライのためのサポートガイド
https://www.waseda.jp/inst/gscenter/news/2020/03/23/3167/

早稲田大学GSセンター紹介動画

Twitter@gs_waseda

取材・インタビュー/芳賀たかし Instagram@takapiii_new
画像提供/早稲田大学
記事制作/newTOKYO

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