TALK
人生と旅は選択の連続 東京→鹿児島 1,300km歩いて日本を繋ぐ その③
男でも女でもないXジェンダー”れいれいさん”
自ら鹿児島まで歩き、様々な人々の暖かさに触れあい支えられながらの旅。
LGBTs啓蒙活動を続け、地方に住む当事者たちと出会ったことで見えてきた「LGBTsの現状」をお伝えする。
東京から鹿児島まで荷物配達する企画、れいパレード。
旅を始めて5日目。
横浜から箱根峠を超えて静岡担当の“ゆん”(Xジェンダー)に『よう服』を託し、“ゆん”が作ったオリジナルTシャツを預かって今度は浜松駅へと向かっている。
一人の人間として会う
この前日ツイッターでDMがあった。
「明日迎えに行くので静岡巡りしませんか?」
そう連絡してくれたのは“しょー”だった。
“しょー”は同性の恋人ができるまで、世間一般で言われる『ノンケ』だった。
今では逆に恋人を溺愛している“しょー”だが、「からかわれているのではないだろうか」と感じ、交際が始まるまでものすごく悩んだようだ。
“しょー”曰く、「そりゃぁ、ヒマだったのと、ツイッター見て、会ってみたい人だったから」という理由で連絡をしてくれたのだが、他の当事者やコミュニティと接点を持ちたいという意欲があるわけではなかったものの、れいれいという一人の人間に関心を持ち、ドライブに誘っていただけたのはまさにこの企画の大目的を果たしているのだなと実感していた。
“しょー”にとって同性の恋人はあくまで一個人を相手にした人間関係であり、同性愛者であることを理由に当事者のコミュニティにつながる必要性を感じていない。
今回の企画でも目的としていたようにイベントやコミュニティづくりを意識してきた自分にとって、有難いことにそういった考えを持った当事者もいるのだと“しょー”と話して気づかされた。
無事浜松駅に到着し、“しょー”が静岡名物『さわやか』に連れて行ってくれた。
待つことなくすぐテーブルに通してくれたが、“しょー”曰く普段は一時間待ちが当たり前のようだ。もちろん、オーダーも待つこと無く、自分が注文したのは「さわやかハンバーガー」。自分は「さわやかハンバーガー」を食べた。味が独特で、好みが分かれるハンバーグだと思うが、確かに一度食べれば印象に残るハンバーグであることは間違いないだろう。
この日の夜、“こうせい”が友達と一緒に浜松から西に車で40分ほどいったところの湖西から会いに来てくれた。三人でラーメンを食べながら遠州弁(静岡県西部地区の方言)について解説をしてもらった。
今まで出会ったことがない方言だったので興味深い。
“こうせい”はFTMだが僕らはジェンダーやセクシャリティの話しかしないのではない、あくまで一個人の人間として持ち合わせた性質がマイナーなだけであって、非当事者と何ら変わらない生活を送っている。
一緒に来てくれた友人の“ゆーちゃん”は非当事者だが“こうせい”と仲が良く、“こうせい”や僕に対しても『セクシャルマイノリティ』の当事者たち、もしくは『トランスジェンダー』の人たち、という目線ではなくそういった性質や過去、思想を持った一個人の人間と割り切ったうえで接してくれていた。第三者目線では当然のように思えても、実際その立場になったときにここまでフラットに付き合える人はまだまだ多くはない。単純な道理ではないが、人や概念が多く介在し関係が複雑化しやすい都市部においてはより偏見が強まる傾向があり、逆に地方では『気が合うかどうか』をより重視する傾向があるかもしれないと感じている。
道中留まることはできないが都市では最大三日の滞在が可というマイルールに基づき、しばらく浜松で休養を取ることにした。
すべてが不慣れでかなり体力を消耗していたためおそらく休養中も外に出ないだろうと思い、宿泊は人が集まるラウンジがある365BASEというユースホステルにした。
翌朝から早速ラウンジに入り浸っていたが、ちょうどチェックインで入ったご家族連れの“かわにしさん”とお話しをした。休暇で地元に帰ってきたらしく世間話から徒歩旅の話になったところ、横から「ええっ!まじで」と聞こえてきたので振り向けば「ごめんなさい聞こえちゃって」といったのは“朝比奈くん”だった。“朝比奈くん”は『フェスモーチェV浜松』というサッカーチームの選手で、ジュニアたちにサッカーも教えていたりするらしい。365BASEの一室を事務所として借りているらしく、今日はたまたまラウンジで仕事をしていたそうだ。
ユースホステルは様々な志を持った人たちや一般的なホテルとは違った体験ができる場所として非常に最適で、刺激を多くもらえる。
旅を再開する前夜には“かわにしさん”がお酒や食料を用意してくれ、翌朝はラウンジで見送りをしてくれた。元ラガーマンだけあって握手とハグはかなり力強い。
それぐらい気にかけてくれた彼とはお互い詳細に素性を明かすことはなく、連絡先も一切交換していない。ここで出会えた一瞬を祝い、別つ道で互い健闘を送りあう。
縁あればまたどこかで会うだろう。
箱根よりも長い一日
1月25日、南下再スタート。
浜松担当の“ゆうきくん”(FTM)に“ゆん”から預かったオリジナルTシャツを渡し、名古屋行きの荷物にホワイトムスクのアロマディフューザーとお菓子を受け取る。
予定でいくとこの日は浜松から豊橋まで進む予定だったのだが、グーグルマップの指定する道が少々複雑で、さりげなく曲がり道をすることがあったため気づかずに遠回りしてしまうことが度々あった。
グーグルマップでは37キロと書いてあるところなぜかこの日は50キロも歩いていた。
休養の直後はやはり心身ともにきつい。そして道は、ゆるやかな登坂が続いた。
箱根が最も過酷な一日だとすると、この日は最も長く感じた日といっても過言ではないだろう。
弁天大橋を渡る。東海道五十三次にも出てくる浜名湖だが、かつてこの浜名湖を横断するには橋ではなく船をつかっていたそうだ。
湖西、そして新所原あたりにたどり着いたがグーグルマップの表示する予定時刻に少しゆとりを持たせてもどう考えても午前12時に間に合わない。慌てて予約したホテルに事情を説明する。「浜松から徒歩で向かっているのですが、予約時刻より遅くなりそうで…。」、フロントマンも不思議そうな感じだったが問題なかったのでとりあえず寝床は確保できそうだ。
到着が遅れれば遅れるほど睡眠時間が減ってしまうので、どちらかというと翌日に影響が出てしまう。
ようやく豊橋目前というところで小雨が降り始めた。
25キロ程度のリュックが常に肩を圧迫するので腕を上げるのは一苦労なのだがそれに加え、ストックを両手に持っているので傘をさすことが一切できないため、雨が降ると荷物を一度下してレインカバーの装着、撮影機材をジャケットの内側に入れたりフードをかぶったりしなければいけない。
視覚や聴覚に制限が増えるのでかなり神経を使う。
おまけに1月下旬と真冬の時期なので短時間でも雨に当たり続ければ低体温になってしまう。
短い休憩をはさみながらなんとかたどり着いたころには0時を回っていた。
大抵地方では19時を過ぎると人通りや賑わいはなくなっていたが、豊橋はこの時間でも若者が飲み歩きにぎわっていた。
ホテルのフロントでは「もしかして、浜松から徒歩で来られた方ですか?」と気づかれた。
そうか、ついに愛知に入ったのだ。ここまで約285km、鹿児島まではまだまだ遠いが着実に進んでいる。
愛知でもたくさんの旅のサポーターと会う予定がある。
楽しみだ。
PROFILE
れいれい
1995年4月12日生まれ。男でも女でもないXジェンダー。恋愛対象はパンセクシャル(恋愛対象に性別を拘らない。)。
香港人の母と日本人の父の間に生まれ、幼少期より海外で過ごし国際的な文化圏で育つ。
物心がついた時から性違和を感じるも答えが見つからず、20代に入ってどちらでもないという概念に行きつく。
現在ではジェンダーフリーデザイナーとして、アパレルブランド「RAY RAY」、ボーダーフリーイベント「れいパ」をオーガナイズしている。