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人生と旅は選択の連続 東京→鹿児島 1,300km歩いて日本を繋ぐ その⑤

男でも女でもないXジェンダー”れいれいさん”
自ら鹿児島まで歩き、様々な人々の暖かさに触れあい支えられながらの旅。
LGBTs啓蒙活動を続け、地方に住む当事者たちと出会ったことで見えてきた「LGBTsの現状」をお伝えする。


人とつながって自分を知る①

旅が始まって9日目。今日から数日名古屋に滞在する。
SNSではJRゲートタワーのスタバに一日いることを通達し、いつでも会いにこられるように待機する。

朝一できてくれたのは“みなと”だ。“みなと”は大阪で『れいパ』を開催した時にたまたま名古屋から大阪にきており、イベントではなかったが一度会っている。あまり感情を表に出すタイプではないが、人懐っこくて優しい。今回も名古屋を通るのを心待ちにしていたらしく、まだかまだかと首を長くして待っていてくれていた。“みなと”はXジェンダーで、そういえば性的指向は良く知らない。というかその人がどんな人を好きになろうと「いいじゃんいいじゃん!」としかならないので、わざわざ知る必要がなかったりする。
また、恋愛感情を持たない『アセクシャル』という人もいる。そういう方に「どういう人が好き?」と聞くのも野暮だったりするので僕は特に見た目だけでなく、中身も先入観やイメージを持たないようにしている。
“みなと”もおそらく似た感覚だろう、一緒にいて特に意識することがないのですごく楽だ。

みなと

“みなと”とは一度解散して、しばらく仕事をしていると“あお”がやってきた。
 “あお”は男でも女でもないが、Xジェンダーというのもしっくりこないようだ。性別のことだけでなく自分が何者かわからず、その答えに近づくためにわざわざ岐阜から会いに来てくれた。名古屋寄りの岐阜に住んではいるが、似たような境遇の人やコミュニティにはあまりつながれていないようだった。
自分が何者かわからないもどかしさや、完璧な答えが欲しいという欲求。自分にもかつてあった苦悩だった。
僕はかつて自殺志願者だった。幼少期から性違和を感じていたがそれに悩むよりも、日本と香港の混血であることや、海外在住が長かったことによる国籍や文化のギャップ、親の理想とはかけ離れた自分の理想。自分が「何者かわからない」、「何者になりたいかわからない」、「世の中が求める自分にはなれない」苦悩にずっと悩まされていた。
20代前半のある日、自殺未遂を聞きつけた姉に見つかり大泣きしながら抱きしめられて「生きててよかった」と言われたことがきっかけで死ぬのをやめようと決めた。何者でもない自分を受け入れてくれる人がこんなにも近くにいたことに救われたのだ。
何者にもなれない人間は生きる権利がないとばかり思っていた僕は、いざ生きると決意したがやりたいことなんてなかった。そこで「やりたくないことはやらない」というのを選択の基準にしてはじめて人生に余白が生まれ、少しずつポジティブに、「やりたいことだけをやる」人間に変わっていくことができた。
それまでは「生きる大義名分」を模索していたが、「何者かわからないこと」や「何者でもないこと」も一つの答えであり、すでに世の中にある何者かになることが答えとは限らない。
そんな僕の身の上話が“あお”の中で何か参考になればと思い、話した。

あお

しばらくして“悠生くん”がバイトの直前に一目会いに来てくれた。“悠生くん”はFTMで当時オペを目前に控えていた。この時は本当に一瞬しか会えなかったが、“あお”を紹介し、三人で写真を撮り、なんと名古屋出発の日に一緒に歩くことに同意してくれた。

このあと“じんべい”と“るる”と合流し『しょうしょく』こと『昭和食堂』につれていってもらった。“るる”は名古屋在住だが初回の東京の『れいパ』に来てくれたことがあり、かなり長いこと知り合いだ。シスジェンダー(性自認と身体が一致していること)で今は同性の恋人と暮らしている。“じんべい”はこの日が初対面で“るる”が連れてきてくれたXジェンダーだ。世の中ではマジョリティも含め同性や同じ性的指向に合わせてコミュニティを作ったり集まりがちだが、僕はできるだけそういうことをしないようにしている。気が合うかどうかはその人の性質ではなく、本質的な人間性に左右されるものだと思っている。
“あお”も予定にはなかったが全員初対面の飲み会にきてくれた。小さくともこうしてコミュニティはできていくものだし、人を性質で見るのではなく人間性をみて人付き合いができることは長い付き合いをしやすくすると確信している。

みんなで昭和食堂

飲み会の解散後はLGBTQアイドルグループ『NSM+』のリーダー、“樹梨杏”とご飯の予定があり合流した。本サイトの他コラムを読んでいる方はお気づきかもしれないが、“樹梨杏”もコラムを寄稿している。興味のある方は本コラムの下部リンクからぜひ。
僕と“樹梨杏”は初対面で、道中「会えたらいいですね~」のノリで会うことになった。
名古屋では長いこと活動しており名古屋のセクシャルマイノリティ事情に詳しく、アイドルグループは他地域とのコラボレーションもしている。
関東以外の地域で精力的に活動している人と会うのは新鮮で楽しかった。
お互い自分を貫いていて、周りは賛否両論かもしれないけど自分らしく生きていく姿を見た誰かがまた自分らしく生きていけたらいいよねなんて話をした。

樹梨杏

夜は僕が大好きな“りお”の実家に泊まった。大好きと書くと語弊があるかもしれないが、かなり信頼していて人として大好きだ。僕は友達と恋人の境目がなくて、「友達として好き」「恋人として好き」という感覚がわからない。逆に信頼関係がすべてで絆が深まると好意を感じる。友達や恋人の境目は結局人が作ったものであり、純粋にその人を大切に思う気持ちは人間関係の名前に委ねられるものではないという感覚。これは非常に言葉にするのが難しいのだが、ソウルメイトというのが正しいのだろうか。
巷ではこういう傾向の人をデミセクシャルというらしい。“りお”はフィリピンと日本の混血でXジェンダーだ。性的指向はやはりよく知らない。今は彼女がいるらしい。“りお”はよくオンラインゲームを一緒にしていたメンバーの一人で長い付き合いで、なんだかんだ会ったことがなかったが、昨日会ったかのような感覚で自然と打ち解けた。日本酒を飲みかわしながら朝までオンラインゲームをグループのメンバーとし、久々の休日を味わった。

りお

名古屋では思っていたよりも大勢の人に会えてうれしかった。
出会った人たちはみんな素敵な人たちばかりで、またここに来ようと思えるぐらい名古屋が好きになった。どんな場所にもいろんな事情を抱えた人がいる。ある意味当事者だから引き合わされたのかもしれないが、当事者としてではなく一人の人間として向き合えることに喜びを感じる。

NSM+
http://nsm-plus.com/

樹梨杏
Twitter@julian_cloj112

コラム

PROFILE

れいれい

1995年4月12日生まれ。男でも女でもないXジェンダー。恋愛対象はパンセクシャル(恋愛対象に性別を拘らない。)。
香港人の母と日本人の父の間に生まれ、幼少期より海外で過ごし国際的な文化圏で育つ。
物心がついた時から性違和を感じるも答えが見つからず、20代に入ってどちらでもないという概念に行きつく。
現在ではジェンダーフリーデザイナーとして、アパレルブランド「RAY RAY」、ボーダーフリーイベント「れいパ」をオーガナイズしている。

Twitter@rayhung0412
RAY RAY ray-ray.online/

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