TALK
「ミッドナイトスワン」を観て (*ネタバレ含むのでこれから観る予定のある方は是非観てからご覧ください)
コラムライター/樹梨杏(じゅりあん)
愛知県出身
セクシュアリティ:パンセクシュアル
名古屋を拠点にパレード実行委員、lgbtq出張講座 、ダンサー、YouTuber、MC、モデル…と幅広くマルチに活動中。体力と真面目さが売りです◎
「ミッドナイトスワン」を軽い気持ちでレイトショーへ。
主演の草彅 剛がトランスジェンダー役で挑んだ作品、予告編は事前に観ていたのだが、参考にならないくらい本編は私の心に何かを残した。
「女性として生きる凪沙と、親から虐待されてきた少女・一果。孤独な二人が寄り添う、世界で一番美しいラブストーリー。」
今日までに2回観た。
一度目は恋人と、友達の3人で。
観終わった後、「あんた(映画ちゃんと)観れなかったでしょう」と言われた。
2人には私が映画を観てる時、主人公の凪沙ともう一人身近にいる
ある一人の女性に写して観ていたことが伝わっていたんだと思う。
このシーンを“はずみ”が観たらどういう気持ちになるだろう。
そう思いながら帰宅した。
“はずみ”は凪沙と同じカテゴライズのトランスジェンダーである。
2年前に性転換手術を受けた。
本当にエッジの効いたいつでもお洒落な人。
冬は女優ハットにモカブラウンの細身のトレンチコート、Christian Louboutinのハイヒール、アクセサリーはゴテゴテのクロムハーツ。
髪型は黒髪ロングの姫カット。それが彼女のイメージ。
映画の凪沙も同じような格好だったので、それも親近感を覚えた一つだった。
(私とはずみの関係は映画の一部にもなっているので気になる方は「恋とボルバキア」をご覧ください。)
初めて映画を観た日から二日後、本当に偶然ではあるがその人と観ることに。
“はずみ”(MTF)はこの映画をどう思ったのか、とても気になった。今回はインタビュー形式でまとめたいと思う。
※ここからネタバレ含む。
私:この映画で一番心がギュッとした(辛かった)ところは?
はずみ:性転換手術が終わり実家に帰ったシーン。
私:それはどうして?
はずみ:まず凪沙の存在が家族にとって有益でないことがわかるシーン。
肉親に理解してもらえてないことって当事者に関わっている人にとって最初のありふれた悲劇だと思う。できることなら誰もあのような目にあって欲しくないけれど起こりうることなんだよね。本人にとって女であるという普通のこと(悪いことではない)が大切な人に伝えることが危険を伴うこと。
私:あなたも親にカミングアウトする前に実家に帰るときはいつもすっぴんでオーバーサイズの服を着て帰ってたよね。
はずみ:凪沙よりも頻繁に帰らなければいけなかったから毎回ドキドキした。
私の場合、まず両親を混乱させたくなかったんだよね。
そしていつからこの子は悩んでたのだろうって責めることで哀しませたくなかった。
あのシーンでは凪沙が女性として生きて行くようになったのが、いつからなのかとか、そうなった原因も両親が受け入れれないことが辛いのか、相談してもらえなかったことに辛いのか、何に対して辛かったのかもわからないけれど帰省の理由は一果への情だけではなくて自分自身を受け入れてもらいたかったのかもしれない。
私:この映画で一番リアルだなーと思ったところは?
はずみ:ショーパブのシーン。
女性からの綺麗ですねーって言われているところ。
私:あなたもいわゆる「ニューハーフB A R」でお仕事していたこともあったよね。
同じことってあった?
はずみ:たくさんあった!「元男性」っていうレッテルを言ったら急に言われるの。お笑い芸人みたいなポジションとして必要以上に言われることも多い。
それは女子と同列にみてなのかとか、生物としてなのか、キャラクター的な可愛いなのかわからなくて嬉しくなかった。
映画で「お前ら女だから」って男の人の台詞があったでしょ?
結局、一緒にいたモデルとは、違う生物として見ていて男としては綺麗。同列として見ていないって意味なのかなってリアルに思えた。
私:どうしてニューハーフB A Rに足を運ぶ人がいると思う?
はずみ:私もそれは気になって初めてきたお客さんに聞いて見たことがあるの。
そしたら「観てみたい」「TVでそういう人たちを見て頭がいい、面白い」っていっていて。
私:実際あなたはそう言われた時にどう返していたの?
はずみ:仕事だからしょぼんとしても笑ってて、そのうちネタとして(そうでしょ)になった。私はそれができるようになった。
私:あの映画って「母性」も大きなテーマだよね
はずみ: ピュアだけではなく擬似親子像を感じた。凪沙が性転換手術をしたことって
ピュアな母性だけでないと思う。一果かステージで踊れなくなった時に実のお母さんが抱きしめに行った。あのシーンの勝ち負けがトリガーだと思う。
母親像を演じていることが気持ちよさは凪沙にも実の母親にもあった。
自分が気持ちよくなれるところに愛がある、それも2人の共通点かな、と。
私:おむつのシーンがあったよね?私あのシーンがよくわからなかったの。
あれは一果が手に入らないことでお手入れの気力がなくなってダイレーション(お手入れ)をサボったのかな?
でも念願の女性になれたのになあって思ってしまったの。
一果に出会う前も女性として生きたかったと思ったから。
はずみ:それは私もよくわからない。
最後に凪沙が「死んだ」ことで性別変更の手術は身体に対する負担を考えたメッセージなのかなと。今はあまりないが過去は亡くなった例もあるみたいだから。
私:あなたは手術して何か気持ちが変わった?
はずみ:手術する前は性別変更せずに戸籍を変えることが出来る可能性に反対だっだ。
「見た目」ってある程度必要なことだとは思ったから。
でも手術をしてから変わった事は戸籍を変える変えないは自由だが、できるだけ手術をしなくても世の中に認められる世の中になればいいって思った。
例えば結婚。誰とでも結婚ができるルールができたら、手術したくない、できない人も戸籍変更しなくても結婚できるのになーって思った。
私:この映画をたくさんの人が理解できると思う?
はずみ:当事者にしか理解できない内容ではないかなと思った
まず「あるある」って気づかないだろう。そして「あるある」で終わらせてしまうだろう。と。あなた昔、どこかの番組でレズビアンの役として出演頼まれたことがあったじゃない?
台本に急にキスしてください、とかノンケの女の子とお風呂に入ったら?
って言われて困ってたじゃない?その感覚でいるうちはわからないと思う。
私:なるほど。この映画って当事者の中でも物議を醸し出しているよね?それについてはどう思う?
はずみ:トランスジェンダーだけ特別にしてください。
トランスジェンダーだけが特別でない。いろいろな意見があるよね。
映画でもあったように「なんで私だけ」って世を呪う人も多い。
トランスジェンターは他のセクシュアルと比べてパス度があるかないかも大きいと思ってる。
私はMTFとFTMと比べてもひげ、毛、筋肉、身長…やっぱり私たち(M T F)の方がって思ってしまう。
でも何より私が思うのは当事者じゃない人が代弁するのは違うと思うの。それこそ特別あつかいしてると思う。
トランスジェンダーはずみさんの呟き
(ここでTwitterよりはずみの感想を抜粋)
ミッドナイトスワン観てきた。スクリーンの中にはあの日の私が居た。可哀想な人を描いて娯楽にするな?現実、可哀想なんだよ。可哀想な自分を乗り越えるまで可哀想なんだよ。その人にしか分からない痛みってが人にはあるんだよ。理解してもらいたい時があんだよ。でもお前が勝手に可哀想って言うな。
私も凪沙達と同じく、なんでこんな風に生まれた?って泣いたし、ずっと生まれながらの女性に劣等感を抱いていた。男の名前が苦しかったし、愛する者にも辛い思いをさせてしまった。恐らく時間の都合で端折られたであろう空白の時間に何があったのか?
想像でしかないけれど肉体と精神を削り捧げても大切なものを手に入れられず壊れてしまったのだと思う。私もそうだった。真面目で愛情深いトランスジェンダーほど苦しい思いをするのだろう。私は凪沙ほどの母性は無い。甥っ子が居るが、甥のためにあそこまで出来ない。
ミッドナイトスワンで描かれている事は大袈裟などではない。リアルに描かれた映画だと思う。凪沙と私の違いなどほんの僅かだ。その事実と繊細に描かれた世界観にジワジワと恐怖している。観る人のほとんどがトランスジェンダーでは無いはず。女性より女性らしい?面白くて努力家で素敵な存在?
TVなどのメディアの影響だと思う。ショーパブやお店での接客のイメージだと思う。あれらは彼女たちの生存戦略であって等身大のトランスジェンダーではないよ。実際は大多数の方が痛みを抱えて生きてる普通の人間だよ。むしろ普通に憧れて、でも普通が中々手に入らない感覚で生きているんじゃないかな。
LGBTと一括りにされるのは乱暴だ…ゲイの人やレズビアンの人は就職困らないやん…恋愛対象がマイノリティなだけで恋愛も普通に出来るじゃん?私は恋愛するのも就職するのも一苦労。トランスジェンダーはもっと苦しいよ?って思っていた事があります。でも人には人の地獄と苦しみがある。
それはその人にしかわからないもので不可侵なものなんだ。だからトランスジェンダーの苦しみが特別なのではなく誰もが抱える痛みこそ特別なものなのだ。特別な悲劇ではない。誇張された悲劇でもない。人の悲劇を映画という娯楽にしたものなど山ほど有る。それと一緒。だから観て欲しい。そう思った。
最後に
私:どうしたら世の中って変えられると思う?
はずみ:「100円で3人救えます」って書いてある募金箱と
「100円でどこどこのどういう誰々を救えます」って具体的に書かれている募金箱だとあなたはどちらに募金する?
そしてWikipedia寄附って今みんながしてると思う?実際使えなくなった場合にする人は増えると思う?そういうことだと思うんだよね。
以上。
最近、L G B T Qにスポットが当てられている映画が増えただけでなくなんとなく見ていた映画にL G B T Q当事者が出てくることも増えた。
どんなかたちであれ、「知る」って大切なこと。その中で公に出すということでまた「表現の自由」のかたちを考えることも大切。その上で観た人たちがどう思うかもそれぞれ。私の頭の何倍も賢くて繊細でエッジの効いた彼女。
私はこの映画に出会えてよかったし、まだ見てない人に見て欲しいって思う。
そして私のように感想を交換することもとてもいいと思う。
PROFILE
樹梨杏(じゅりあん)
セクシュアリティ:パンセクシュアル
生年月日:1986年5月7日
出身地:愛知県
公式Twitter:Twitter@julian_cloj112
公式インスタ:Instagram@julian_cloj112
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCM3GjJJOHm9AsO4KZ9Um96A